建築・デザイン系

第7回 建築系ひとづくりフォーラム

2001年11月30日、埼玉県行田市の「ものつくり大学」にて、第7回 建築系ひとづくりフォーラムが開催されました。


業界改革めざし、壮大な教育実験に挑む

− 開校したばかりの「ものつくり大学・建設技能工芸学科」を訪問 −

 

■話題を集めた大学に、各地から多様な方々が参加

 第7回は、開校したばかりのものつくり大学で開催した。マスコミ等でも話題になり、多様な業界団体・企業、教育機関(大学、専門学校、能力開発施設等)など初参加含め50名弱の多数参加があり、熱気ある場となった。

 開校1年目で時期早尚の感もあったが、新たな施設環境や意欲的姿勢に触れ、意義深いフォーラムとなった。

・日時:

2001/11/30(金)午後

・会場:

「ものつくり大学」(埼玉県行田市前谷333)
http://www.iot.ac.jp/

・参加者:

47名(一般参加31名+会員16名)

・対応:

校側6名(宮本伸子(教務課長)、大田邦夫、岩下繁昭、蟹澤剛宏、深井和宏、増渕文男(建設技能工芸学科)の各氏>)


■構想10余年、紆余曲折の末、私立大学として開校

 当大学は、周知の通り、当初、建築系の「職人大学」として構想された。(当時は「(仮称)国際技能工芸大学」)。当専門部会では、1992年頃の構想初期から関係者と交流を深め、本誌でも度々特集を組み紹介して来た。

 その後、製造系を付加したり、資金集めに苦労し社会事件が起きるなど様々な経緯があり、文部系の私立大学として、ようやく2001年開校にこぎつけた。


■新時代の創造的な「テクノロジスト」育成をめざす

 高度な技能技術を追究する専門職業人を「テクノロジスト」と称し、@実技・実務教育、A技能と科学・経済等を連結する研究、B社会要請にあった研究、C人間性豊かな教育、D統率力や起業力を養うマネジメント、Eグローバル化に対応できる国際性、等の理念を掲げている。実学を重視し、「まずものに接し、問題を発見し、自ら解決方法を見出し企画・製作するプロセス」を重視している点が大きな特徴であろう。


■ものづくり教育のための独自環境を工夫

 キャンパスの設計は、プロポーザールにより山下設計が担当した。資金不足もあり構内は未完成で荒野のようだが、今後は学生自らの環境整備も考案中と聞く。

 建設系は、吹き抜けの屋内実習場を3ゾーン持ち、必要な実験設備も各所に整備されていた。多数の学生が実習するため、班別に回転させながら授業を行うためである。外にも広い作業ヤードが用意されていた。


■意欲的な学生と教員の参集、教育実験の開始

 学科は、「製造技能工芸学科」と「建設技能工芸学科」で構成されるが、定員各科180名と膨大である。

 学生は全国から集まったが、過半は近県からで、1期生は約20名が社会人経験者とのこと。

 指導陣は、事前に教員公募が行われた。1年目は専任10名程度、将来20名程度の予定。5年契約制と聞く。


■ユニークな建設基礎実習、2段階インターンシップ

 建設系は、構想当初より様々な議論が行われて来ただけに、独自カリキュラムの工夫が見られる。

 2年次までは共通で、3年次から3つのモデルコース(ティンバー、ストラクチャー、フィニッシュ)に分化するが、実際にはさらに多数を用意予定という。

 教育方法では、1年次の「建設基礎実習」(技能を分解し、木・石・土・コンクリート・計測等、素材や作業毎に基本実習)や「2段階長期インターンシップ」(2年次3ケ月、4年次6ケ月)が大きな特徴であろう。

 座学では、「コミュニケーション」「建設技能工芸学」「職人学」「建設倫理」「建設経営」「プロジェクト・マネージメント」等の独自科目が用意される。

 実習では、常識的に20人前後が限界とされる実習教育を、前代未聞の規模で行う苦労がある。実際には、180名を3班60名ずつに分け、実習指導は地元の職人組合(建設埼玉、埼玉土建他)等からボランティア的支援を仰いでいると聞く。(学生15名当たり非常勤1名を基準)

 注目の実務実習はまだだが大変な試行となろう。


■踏み込んだ鋭い質問、練られた構想からの応答

 見学後の質疑では、太田教務長ほか建設系教員が対応され、活発な応答が続いた。(詳述する余裕がないが、「教育理念は?」「実習方法は?」「新市場への対応は?」「社会人入学生の扱いは?」「伝統技能の継承法は?」「インターンシップの受け入れ企業は?」等)

 これらの質疑にも、教育や業界改革に対する本大学への熱い期待が実感された。ものづくり教育は、各地でも地味な努力が継続されているが、今後は教育プログラムの競争の時代を期待したい。参加者誰もが、学生が巣立つ頃、数年後に再度訪問したい気持ちで散会した。


●ものつくり大学の学科構成(建設系は、3年次より大きくストラクチャー、フィニッシュ、ティンバーコースに分化)

●キャンパス完成予想図(設計はプロポーザルでやました設計が担当。奥側が湿地のため手前に寄せて配置。)

●木材の基本加工実習(1学年180名と多数のため3判に分けて実施。指導は職人組合などが協力。 1年次建設基礎実習の一つ。HPより)

●型枠を脱却し終えたRC造壁(各班毎に製作。この後、各種のRC検査や仕上実習等に利用。1年次建設基礎実習の一つ)

●RC造の基本製作実習(1年次建設基礎実習の一つ)

●2年次、グループ別に制作された木造家屋(約15名の各チーム毎に、規模・予算の枠内で自由に構想し自主建設。2002年、1期生の作品)

●石材の基本加工実習(石材を加工しアーチを組む。この後、そのまま倒して外部ベンチとして活用。1年次建設基礎実習の一つ。HPより)

●ティンバー系実習場の木造パネルの水平加力試験装置(恒例の「木造耐力壁競技ジャパンカップ」決勝が翌年行なわれた。床は砂利敷き)

●建設重機実習(2年次からの基礎インターンシップに備え、各種の特別教育や技能実習を実施。 HPより)

●製造技能工芸学科のカヌー製作(入学時にフレッシュマン・ゼミとして実施。毎年、利根川で競技大会を行い話題に)

●フォーラムの質疑風景(話題を集めただけに、多様な方々が参加。教育理念、実習方法等に踏み込んだ活発な応答が続く)

(企画・実施担当:秋山恒夫)

〔ものつくり大学関連の過去の「実践教育ジャーナル」誌記事は、以下を参照〕
@1992/9月号「特集・サイト・スペシャルズの時代」(藤澤好一)
A1994/3月号「特集・日本の職人教育どうする?」(三浦裕二)
B1997/7月号「特集・職人大学の実現をめざして」(大田邦夫)

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