建築・デザイン系

第10回 建築系ひとづくりフォーラム
Part U

(有)三浦創建

2005年9月30日〜10月1日、長野県松本市の「長野県松本技術専門校」と塩尻市の「(有)三浦創建」にて、第10回 建築系ひとづくりフォーラムが開催されました。

※ このページは、「(有)三浦創建」で行われたもののレポートです。

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若手職人の育成と新伝統構法に取り組む

− 各地から多数の若者を受け入れ、
地域でがんばる「(有)三浦創建」 −

■塩尻で独自活動中の話題の工務店を訪ねる

 フォーラム一行は、次の見学先である塩尻市の「(有)三浦創建」に向かった。同社は、『建築構法の改革』で著名な構造家増田一眞氏が提唱される「新伝統木構法」と連携し、独自構法を開発・実践する一方、各地から多くの若者や大工育成塾(国交省)の塾生を受け入れている意欲的な工務店として知られる。

〔概要〕・訪問日:2005/9/30(金)15:00〜18:00

・訪問先: @(有)三浦創建・下小屋及び実験場

       (長野県塩尻市大字宗賀3636-4)

http://www.miurasouken.jp/

       A天理教桔梗ヶ原分教会信徒棟(塩尻市)

・参加者:計28名(会員20名、一般参加8名)

・対応:三浦保男氏+弟子6名(大宇根、小沼、戸倉、岡、オオフカ、大滝の各氏。受入中の大工育成塾生の星君は急用で欠席)

〔その夜と2日目の概要〕

・1日目懇親会及び宿泊先:別所温泉「旅館晴山」

・2日目午前:上田市「塩田平」の古寺見学

・参加者:懇親会参加24名、塩田平見学参加22名

●下小屋前に並ぶ参加者の長い車列

●代表・三浦保男氏の話


■県外からの若者7名が修業中

 訪問はまず、同工務店の下小屋(加工場)見学から始まった。見学のあと、待機されていた修業中の若者弟子6名との対話の場を持った。従業員は、設計や家具担当を含め計13名とのことだが、若者がこれだけ居る工務店というのも珍しい。彼らはいずれも県外出身で、様々な経緯から三浦氏のもとに集まることになったとのことで、それだけに志は高く逞しさを感じた。

 実際の仕事では、経験ある弟子を現場責任者とし、経験浅い子は手元役など、チーム制で育成しているという。聞く所では、JIA(日本建築家協会)元会長の息子が弟子の一人であったり、三浦氏の息子が先述の増田氏の構造事務所で見習い中であったりと、相互に入れ子で修業中という新たな時代の息吹を感じた。

●修業中の若者6名(いずれも県外出身)と参加者の対話


■独自構法の性能を検証する実験場を見学

 次に、下小屋近くの駐車場を利用した架構ユニットの実験場を見学した。実験装置は、ユニットの強度試験のために、鉄骨枠フレームと油圧ユニット、アクチエータ等を取り付けた簡便なものだが、工務店が性能検証のために自ら実験を行う例はきわめて珍しい。

●独自開発の「新伝統構法」の架構ユニットの実験場(下部:足固め、上部:桁固め等を付加した「通し貫構法」)

 増田氏の構造指導や、宮澤健二氏(工学院大)の実験指導などの協力を得て何度か公開実験が行われた。

 当日は、実験済みの試験体2体をもとに、三浦氏から詳しい説明があった。試験体は、幅2間(12尺)、高さ9尺、全て地元の木曽ヒノキ120mm角材で構成され、フレーム上下を足固め・桁固め・幕板・落し板等で拘束した「通し貫構法」である。増田氏理論によると、水平力に対し壁がなくとも柱の曲げ抵抗だけによる、ねばり強い古来の伝統構法を改良したもので、実験で性能が検証された。施工面では、くさび、込み栓、鼻栓、ダボの入れ方など興味深い話を聞くことが出来た。

 氏のこだわりは、大径木を使わず120角材のみの構成で強度を出す点にある。床、屋根等の水平構面の組み方にも、同様の工夫が見られる。理由は、大径木が取れない膨大な戦後の地場産材を最大限利用するためで、間伐材も根太等に活用し、材料は十分な天然乾燥を経たものを使っているという。

●重ね梁交差部(ダボ止め竹釘) ●根太の取り付け(幕板を挿入)
●大引きの受け(同) ●屋根の格子桁の組み立て
●格子桁による小屋裏天井 ●通し貫壁の施工
▲独自開発の「新伝統構法」の紹介
(全てヒノキ120角材を主に木組み、三浦創建HPより)

■ヒノキ120角材で構成された新伝統構法建物を見学

 この独自構法を全面的に駆使し、最近完成したばかりの近隣の建物を見学させていただいた。

 この建物は、土台・桁・梁・柱等は木曽ヒノキ人工林120mm角材を中心に構成され、内外にふんだんに木材と漆喰が使用された独自仕様の建物である。

 最大の特徴は、ヒノキの香り溢れる広い吹き抜け空間で、深く大きな天井裏に露出した120角材の複雑な部材構成と漆喰による内部壁が、心地よい独特の雰囲気を醸し出していた。(組み方は下写真参照)

設計:椛q橋英太郎設計事務所
構造:椛搏c建築構造事務所

 氏の丁寧な応答のあと、建物前で参加者全員による記念写真を撮った。


■2日目は塩田平の古寺見学を堪能

 その夜は、来た道を戻り、有名な「別所温泉」のはずれにある民宿風旅館に泊まった。夜には、三浦氏及び翌日ガイドをお願いしている相原文哉先生(県立長野工高)をお招きし、参加者との和やかな懇親の場を持った。会員以外では、守屋今朝登氏(東京大工)はじめ常連の一般参加の方々の他、東京の大工育成塾で修業中の若者、地元建築士会のお二人、宿の女将など、多彩な顔ぶれが膝を接し、夜遅くまで盛り上がった。

▲別所温泉での懇親会(旅館晴山)

 翌2日目は、信州の鎌倉とも言われる「塩田平」(鎌倉期、北条氏の本拠地)に残る、安楽寺八角三重塔(国宝)、中善寺薬師堂、前山寺三重塔(いずれも重文)など、中世の多様な文化財を相原先生のガイドで見学した。昼食には「信州そば」を味わい、非日常の楽しく刺激的な旅を終え、参加者は各地に散って行った。

▲中禅寺薬師堂(重文)にて

▲「前山寺三重塔」(塩田平、重文>)にて

(秋山恒夫:フォーラム企画担当)

 

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