建築・デザイン系

第11回 木造研究部会

 前日から降り続いた長雨も朝方には上がり、初夏をも想わせる抜けるような青空のもと、建築・デザイン系第 11回木造研究部会が、平成18年5月20日(土)13:00〜21日(日)12:00の2日間、四国讃州さぬき・香川県で開催されました。

 研究部会には、北はみちのく陸奥の国・宮城県から、南は九州とよのくに豊後・大分県まで、総勢15名が参加して、開催されました。今回の部会では、空路・陸路の長旅で、讃岐に集まられた参加者のみなさん、まずは名物・さぬきうどんで出陣まえの腹ごしらえ。江戸時代末期の藁葺き農家を移築した『うどんのわら家』で生醤油うどんやたらいうどんなど、3人前はあろうかという手打ちうどんをぺろりと平らげて、少々食傷ぎみ?ながら、最初の研修・四国村の見学を行いました。その後、四国の木材を使った『民家型構法』の木造住宅造りに精力的に取り組んでおられる、六車誠二建築設計事務所・六車工務店の建築現場見学を行いました。日が落ちるまで、充実した見学・研修会となりました。

1. 四国村見学
 四国村は、香川県高松市屋島に造られた、四国各地の民家33棟を移築復元した屋外の民家博物館です。源平合戦の屋島・壇ノ浦の戦で有名な屋島に、約3万mの敷地に、江戸から明治にかけて造られた民家や蔵などが移築されているものです。
1.1  ミニかずら橋

 かずら橋は、吉野川の上流・祖谷川(いやがわ)に架けられたかずらの橋で、屋島で敗れた平家の落人が架けたとも、弘法大師が創ったとも言われています。四国村のかずら橋は、現地の技術者が同じかずらを使用して造ったものです。雨上がりで、割木をかずらで編んだ橋桁が今にも滑りそうで、おっかなびっくりのつり橋体験でした。橋の中ほどで皆さん『はい。ポーズ!』

写真-1 かずら橋


1.2 小豆島農村歌舞伎舞台

 島民が役者やお囃子として演じていた農村歌舞伎舞台。四国では、広く分布していましたが、これは小豆島の舞台です。かやぶき平屋で、回り舞台もあります。江戸時代末期の建造です。

写真-2 農村歌舞伎舞台


1.3 旧河野家住宅

 愛媛県南部の深い谷合の急斜面に建っていた民家で、部屋の床はすべて竹敷き、その上にむしろが敷かれています。寒い山間の住まいの特徴である、各部屋にいろりが切られています。

写真-3 旧河野家住宅(外観)


1.4 砂糖しめ小屋

 讃岐三白(綿、塩、砂糖)のひとつ砂糖は、讃岐の特産品でした。香川県にもわずか2棟だけ残っていたこの小屋は、世界でも珍しい円錐形の屋根裏と垂木の組み合わせです。壁は大壁で、柱の貫も湾曲させてあります。小屋の中央には、3連の石臼があり、腕木を牛が一日中ぐるぐる回してサトウキビを搾ったという建物です。

写真-4 砂糖しめ小屋(外観)


1.5 茶堂

愛媛県北宇和郡の古い街道沿いに建てられていたお堂です。四国の街道には、このようなお堂が多くあり、道行く人びとや四国遍路に、湯茶などの接待が行われていました。18世紀後半の建物のようです。

写真-5 茶堂


1.6 丸亀藩番所

 愛媛県と香川県の瀬戸内側の境に置かれていた幕藩時代の番所です。地元民が詰めていたそうですが、寄棟造りの瓦には丸亀京極藩の家紋が入っています。表の標柱には『予州讃州境、これより東、丸亀領』とあります。なかなか趣き深いものがありました。

写真-6 丸亀藩番所


2. 六車工務店建築現場見学

 六車工務店と六車誠二建築設計事務所の協働による伝統型軸組み工法の家造りの現場を、見学させていただきました。

2.1 『石縁のある家』

 この家は、屋島から車で40分ほど東に行った、香川県三木町長尾、琴平電鉄(コトデン)長尾線終点の四国霊場第八十七番札所・長尾寺からすぐの閑静な住宅地に、見事な姿で建っていました。

 「石場立て」構法で、周囲には1つ80cmくらいはある、大きな石(庵治石=香川産)が多数埋め込まれて、敷き詰められています。夏はひんやり涼しく、冬は蓄熱して床下まで暖かいそうです。

 軒が長く、夏場は奥まで日が差し込まず涼しく、冬場は奥まで日が届き、部屋の中を温めているとのことでした。安芸(高知)の杉・樹齢90年生の高齢目込材を構造材に使い、梁曲げにはカンチレバーにするなど、新しい試みを取り入れていました。このような樹齢の木は、もう手に入らないそうです。

写真-7 六車誠二さんと
親方・昭さん親子

写真-8 小屋組み


2.2 六車工務店の作業場見学

 次の現場に行く前に、六車工務店の加工場を見学させていただきました。若い職人さんも修行中で、四国ポリテクカレッジの卒業生(山下佳太君、右から2人目)も8年目になるそうです。(そろそろ一人前?)

 六車工務店では、物件はすべて板図にして、保存しているそうです。情報の共有化の為に大切だと言われていました。可能な限り現場での作業を少なくするため、作業場で加工する(人力によるプレカット?)とのことでした。

写真-9 六車工務店加工場

写真-10 施工板図


2.3 『仏生山の家』

 次に見学させていただいた家は、戦後植林された「心目が荒い」若齢木しか入手困難になっている現状のもとで、若齢木に対応した構法の構築という点から設計された家でした。ホゾ部分の弱さをカバーするために、横架材は全て、丸太に近い正方形断面にして、背割りをしています。

 継手も、梁が背割りしてあるので、伝統的継手は不可能なため、肘木・敷桁の応用により、柱ホゾを三段にして、継いでいました。

写真-11 若齢木対応型構法の家


2.4 狭小変形地に建つ家

 最後に見学させていただいた家は、明日竣工の家でした。本日までなら、見学できるとのことで急遽、見学させていただくことになりました。この家は、土地が狭いうえに、六角形をしています。さらに、隣家との間に足場が組めないなどの問題もあり、かなり設計に苦労した家だそうです。隣家に接する2壁面は、ガルバリウム鋼板仕上げにしてありました。

写真-12 狭小変形地の家

写真-13 室内空間


 今回の木造研究部会は、江戸時代の民家や作業小屋から、平成の地元の木を活かした『民家型構法』の木造住宅まで、見学してきました。土壁、土間、無垢の太い柱や梁、大黒柱、真壁。何だかほっと、優しい気分に浸った見学・研修会でした。

文責 四国職業能力開発大学校 出口秀史

 

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