●5● JISSEN NEWS 2006.冬 No.150


伝統的木造建築物の耐震性向上方法

 2005実践研究発表会初日の9月28日(水)午後14:00時〜17:00時過ぎにかけて、第1部「講演」、第2部「パネルディスカッション」を開催しました。参加者は43名で、正会員29名、非会員14名(長野県林業総合センター、地元工務店や建築設計事務所)と多数の参加者を得て、活発な討議がなされました。
 近年の伝統的木造建築物は、各地方で長年の様々な経験に基づいた構法が存在しています。しかしながら、昨今各地の地震では、伝統的木造建築物においても被害が見られ、耐震補強を進めるための、評価方法の検討の必要性が高まっています。
 今回のシンポジウムにおいては、伝統的軸組工法の耐震性能評価方法がどのような内容と特徴をもっているのか、また、各地域の現場では、どのように対応されているかを、診断の規準制定に携わられた五十田先生と現場で対応している技術・技能者の話をお聞きし、今後の伝統的工法住宅の耐震診断と補強方法の適用性について検討することです。

第1部「講演」

@「木質構造の耐震性の向上」: 五十田博氏(信州大学)

 研究者の立場から、伝統建築物は現在の耐震診断では補強が必要で、建物には独自の堅さがあり、それぞれに適した補強を行う必要があることが述べました。

A「木材加工と大工技術」:青木俊治氏(青木屋)、村田静男氏(村田工務店)

 青木氏は、製材業の立場から上信地方産のカラ松材の製材方法と乾燥法を紹介しました。一般的に、松はくるいやヤニが問題とされますが、乾燥方法で解決できることを述べました。また、村田氏は、大工棟梁の立場から大径材を用いた木組み工法で施工された伝統構法は金物を使わなくても耐力があることと、設計者への要望を述べました。

B「伝統構法の家づくりを手がける」:清水国寿氏(しみず建築工房)

  設計者の立場から、地元産材を使用した家造りが紹介され、信州地方の独自の板蔵の「落とし板構法」を採用した住宅設計・施工例を紹介しました。

C「新伝統構法による家づくり」:三浦保男氏(三浦創建)

 伝統構法に加えて、力学要素を加味し小径材使用の重ね梁や幕板、格子状の木組みで金物を使わず施工している新伝統構法が紹介されました。


第2部「パネルディスカッション」

パネラー:五十田博氏、三浦保男氏、村田静男氏、清水国寿氏(前掲)

司会:藤村悦生氏(近畿能開大生)、副司会:平野直樹氏(東北能開大生)

 技術論として、伝統構法の柔らかさの評価方法やこれに対する補強方法、伝統構法を施工できる技能力の担保、木組みと金物の関係などが論じられました。
 住まい手側から見るときの、伝統構法に求められる要素として、日本風土・気候との関係、若い建て主の意識、住まい手側が求める安全性や室内環境問題が語られました。
 会場からの質問には、伝統構法の性能表示への対応策や、石場建て(独立柱)の構造解析問題などがあり、各パネラーから意見が述べられました。
 3時間の講演とシンポジウムでは、各々の立場から発表や議論がありました。日本の木造伝統構法の良さを伝承するためには、木組みによる柔らかさを生かした補強方法を明らかにし、住み手への説明ができることが重要との認識を全員が持つことができました。

(近畿能開大 杉本 誠一